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福岡地方裁判所 平成7年(ワ)2105号 判決 1996年2月13日

原告

新貝光男

新貝由紀江

右両名訴訟代理人弁護士

萬年浩雄

伊藤巧示

古賀克重

被告(被補助参加人)

株式会社アサヒ物流

右代表者代表取締役

井上和麿

右補助参加人

日動火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

相原隆

右訴訟代理人弁護士

中島繁樹

被告

田代幸伸

右訴訟代理人弁護士

曽里田和典

被告

石井吉士

石井陽子

右両名訴訟代理人弁護士

竹中一太郎

主文

一  被告らは、原告らに対し、連帯して、各金一三五九万〇八三三円及びこれに対する平成五年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの、その余を被告らの負担とし、補助参加により生じた訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの、その余を補助参加人の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、連帯して、各金二四三八万六七五四円及びこれに対する平成五年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

3  担保付仮執行免脱の宣言(被告田代幸伸)

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  交通事故の発生

訴外亡新貝裕美(以下「亡裕美」という。)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によって受傷し、平成五年一一月三〇日死亡した。

1 日時 平成五年一一月三〇日午前〇時一〇分ころ

2 場所 福岡県大野城市川久保一丁目二〇番二〇号三和機工前交差点

3 加害車両及び運転者

(一) 甲車両 普通貨物自動車(福岡一一う七三四五)

右運転者 被告田代幸伸(以下「被告田代」という。)

(二) 乙車両 軽貨物自動車(福岡四一う四二三九)

右運転者 被告石井陽子(以下「被告陽子」という。)

4 事故の態様及び被害の状況

被告田代が、前方の赤色点滅信号を無視して一時停止を怠ったまま本件事故現場たる交差点(以下「本件交差点」という)に進入したため、左方から本件交差点に進入してきた被告陽子運転の乙車両と衝突し、その衝撃により、乙車両の助手席に同乗していた原告らの長女亡裕美は車外に放り出された後、乙車両の下敷きになり引きずられ、頭蓋骨多発粉砕骨折・両頬骨、上下顎骨粉砕骨折・左鎖骨、両胸部肋骨、左大腿骨、左腓骨完全骨折・気管切断・全身多発坐創等により死亡した。

二  被告らの責任

1 被告田代及び被告陽子の責任

被告田代は、本件交差点において一時停止をすべき注意義務があるのにこれを怠った過失により、被告陽子は、本件交差点を通行するに当たり相当の減速を行い、本件交差点の左右道路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠った過失により、それぞれ本件事故を招致せしめたものであるから、被告両名は、民法第七〇九条、第七一九条の責任を負う。

2 被告株式会社アサヒ物流(以下「被告会社」という。)の責任

被告会社は、甲車両を保有して自己のために運行の用に供していた上、被告田代の使用者であるところ、同人が被告会社の業務に従事していた際に本件事故を惹起したのであるから、民法第七一五条の責任及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の責任を負う。

3 被告石井吉士(以下「被告吉士」という。)の責任

被告吉士は、乙車両の保有者であり、同車を自己のために運行の用に供していたのであるから、自賠法三条の責任を負う。

三  原告両名の地位

原告新貝光男は亡裕美の父、同新貝由紀江は亡裕美の母である。

四  損害

1 死体検案書料及び往診料

二万九五〇〇円

2 葬儀費 一二〇万円

3 逸失利益

六一〇二万六九〇八円

亡裕美は、昭和五二年五月一七日生まれで、本件事故当時一六才の女子高校生であった。

475万3900円(平成五年度産業計、企業規模計、全労働者平均給与額)×18.3389(五一年ライプニッツ式係数)×(1−0.3)=6102万9808円

4 慰謝料 合計 二二〇〇万円

被害者本人の慰謝料

二〇〇〇万円

原告ら固有の損害

各一〇〇万円

5 弁護士費用 五〇〇万円

6 以上小計

八九二五万六四〇八円

7 既払金

計四〇四八万二九〇〇円

自動車賠償責任保険

三〇四八万二九〇〇円

被告吉士加入の自動車損害保険(搭乗者損害保険) 一〇〇〇万円

8 差し引き合計

四八七七万三五〇八円

五  よって、原告らは、被告らに対し、民法第七〇九条、第七一五条、第七一九条及び自賠法第三条に基づき、右合計金額の二分の一である金二四三八万六七五四円及びこれに対する本件事故日である平成五年一一月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求める。

(請求原因に対する被告田代の認否)

請求原因一、二の1及び三の各事実は認め、同四の事実のうち、既払金は認め、その余は不知。

(請求原因に対する補助参加人の認否)

請求原因一、二の2及び三の各事実は認め、四の事実のうち、既払金は認め、その余は不知。

(請求原因に対する被告陽子及び被告吉士の認否)

請求原因一、二の1及び3並びに三の各事実は認め、同四の事実のうち、既払金は認め、その余の事実は否認する。

(被告田代及び補助参加人の過失相殺の抗弁)

訴外亡裕美の死亡は、被告田代運転の甲車両と被告陽子運転の乙車両との衝突の衝撃により乙車両助手席に座席ベルトを着用しないで同乗していた亡裕美が車外に転落し、甲車両と資材鉄パイプ等の間に挟圧されたことに起因したものである。したがって、仮に亡裕美が座席ベルトを着用していたとすれば死亡という重大な結果の発生は避けられたはずであるから、亡裕美には座席ベルトを着用して本件事故の損害の発生、拡大を防止すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った過失により同人の死亡という結果が生じて損害が拡大したのであるから、本件損害額の算定に当たり、被害者である亡裕美の右過失を斟酌すべきである。

(抗弁に対する認否)

争う。

第三 証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生

請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

1  被告田代及び被告陽子の責任

請求原因二の1の事実は、原告らと被告田代及び被告陽子との間に争いがないので、被告田代及び被告陽子は、本件事故について民法七〇九条、七一九条に基づき損害賠償責任を負っていることになる。

2  被告会社の責任

請求原因二の2の事実は、原告らと補助参加人との間に争いがないので、被告会社は、本件事故について民法七一五条、自賠法三条に基づき損害賠償責任を負っていることになる。

3  被告吉士の責任

請求原因二の3の事実は、原告らと被出吉士との間に争いがないので、被告吉士は、本件事故について自賠法三条に基づき損害賠償責任を負っていることになる。

三  損害

1  死体検案書料及び往診料

二万九五〇〇円

証拠(甲三)によれば、原告らが亡裕美の本件事故による死亡に関して右費用を支出したことが認められる。

2  葬儀費 一二〇万円

証拠(乙一三)によれば、原告らが亡裕美の葬儀を営んだことが認められ、本件事故と相当因果関係ある損害は一二〇万円と認めるのが相当である。

3  逸失利益

四一九三万五〇六六円

証拠(乙九、一四)によれば、亡裕美は、昭和五二年五月一七日生まれの健康な女子で本件事故当時高校一年生であったこと、本件事故に遭わなければ平成八年三月に高校を卒業して同年四月から平成五六年三月までの四八年間は稼働していたであろうことが認められる。そうすると、亡裕美は、右期間中少なくとも平成五年賃金センサスの産業計、企業規模計、旧中・新高卒の女子労働者平均賃金(全年齢平均)の年間合計金三〇五万七一〇〇円の収入額を得たものと推認できるので、右の額を基礎として、同額からライプニッツ方式により年四分の割合による中間利息を控除して(本件事故当時の公定歩合が1.75%であること及び本件弁論終結時(平成七年一二月一九日)当時の公定歩合が一%であることは公知の事実であるから、従前のように年五分の割合でもって中間利息を控除することは、中間利息控除の趣旨からして現在では不相当であるといわざるをえず、結局、被害者の損害の公平な分担の観点から年四分の割合でもって控除するのが相当である。)、右期間の逸失利益の本件事故当時における現価を求めると、その金額は、金五九九〇万七二三七円となり、この額から三割の生活費を控除すると、結局、亡裕美の本件事故による逸失利益は四一九三万五〇六六円と認めるのが相当である。

計算式 305万7100×(21.4821−1.8860)×0.7=4193万5066

4  慰謝料 二二〇〇万円

亡裕美の年齢、本件事故の態様及び本件事故後加害者からの慰謝の内容等本件に現れた諸般の事情を勘案すると、本件事故によって亡裕美が受けた精神的苦痛には多大なものがあるといわざるを得ないので、これに対する慰謝料は金二二〇〇万円が相当であり、亡裕美の慰謝料として右額が認められる以上、特段の事情が認められない本件では、原告ら自身が受けた精神的苦痛に対する慰謝料はこれを認めないのが相当である。

5  過失相殺

証拠(乙五、六、一一)によれば、本件事故の際、亡裕美が、被告陽子の運転する乙車両の助手席に座席ベルトを着用しないで同乗していたことが認められるが、他方、乙車両は、衝突後も衝突現場から甲車両によって約26.5メートル引きずられて大破していたことが認められ、このことに本件事故の態様が正面衝突ではなく、乙車両の運転者席への側面衝突であることを考えると亡裕美が座席ベルトを着用していたとしても本件事故による損害の拡大を防止することができたとはすぐには認められない。また、本件事故における被告田代の過失内容が重大であることも明らかである。そうすると、右座席ベルト不着用の事実をもって過失相殺することは、過失相殺の趣旨からして到底許されないというべきであり、被告田代及び補助参加人の過失相殺の抗弁は、採用できない。

6  損害の填補

原告らが、本件事故につき、自動車損害賠償責任保険から金三〇四八万二九〇〇円、被告吉士の加入する自動車損害保険(搭乗者損害保険)から金一〇〇〇万円の各支払を受けたことは当事者間に争いがないから、右金額を前記損害額から控除すると、その残額は二四六八万一六六六円となる。そうすると、原告らが亡裕美の相続人であることは当事者間に争いがないので、原告らは、被告らに対し、右残額の二分の一に相当する各金一二三四万〇八三三円の連帯支払をそれぞれ請求できることになる。

7  弁護士費用

原告らが、原告ら訴訟代理人らに本件訴訟の提起・追行を委任し、相当額の報酬の支払いを約していることは弁論の全趣旨により認められるところ、本件事案の性質、事件の経過、認容額に鑑みると、被告らに対して賠償を求めうる弁護士費用は各金一二五万円が相当である。

四  以上のとおり、原告の本訴請求は、被告らに対し、各金一三五九万〇八三三円及びこれに対する平成五年一一月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度において理由があるからこれを認容するが、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、補助参加により生じた訴訟費用につき同法九四条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言については不相当であるからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官中山弘幸)

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